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最高裁判所第一小法廷 昭和26年(オ)332号 判決

主文

原判決を破棄する。

本件を広島高等裁判所へ差し戻す。

理由

上告理由第三点について。

原判決は、本件売買代金八万二千円が全額上告人の手取額ではなく、宅地の分筆のための測量費用、登記費用等は上告人、被上告人双方で折半負担することにつき、双方別に異議のなかつたこと、係争の便所及びその敷地が本件売買の目的に包含せられ、被上告人の買受物件の中に属すべきものと了解せられていたこと、右便所及びその敷地が、本件売買の目的の中に入つているかどうかの、上告人と被上告人間の紛争につき、本件売買の立会人であつた原弁護士が仲裁を試みるに至り、右仲裁中昭和二三年五月一四日附書面をもつて、被上告人に対し、残代金三万円を同月二一日までに支払うべき旨の催告及び条件附契約解除の意思表示をなし、被上告会社代表者水本多久美は、右催告期限経過後同月三一日に至り、三万円の小切手一通を原弁護士に交付し、同弁護士は即日これを上告人方に持参したところ上告人が留守であつたため右小切手を上告人に交付することができなかつたことを認めることができる旨を認定し、右認定の如き事情の下において、被上告人が残代金三万円を前示催告期間内に支払わなかつたのは正当の事由があり、被上告人に残代金支払につき遅滞に陥つたものということができないのであつて、上告人が本件売買契約に基く自己の義務の充分な履行を拒否しながら、被上告人に対してのみ義務の完全な履行を請求した上告人の前示催告及び条件附契約解除の意思表示の無効であることは明白であると判示している。しかし、便所及びその敷地が本件売買契約の目的となつていたかどうかにつき生じた上告人と被上告人との間の紛争につき仲裁中であつたとしても、これによつて上告人の権利行使が法律上制限を受くべきいわれのないことは論旨のいうとおりであり、そして、本件売買契約については、上告人は所有権移転登記手続は代金完済後これを行うことを約定した旨を主張し、同時履行の関係ではないといい、被上告人は、代金完済と引換えに移転登記を受ける約定で上告人より買受けた旨を主張するのであるから、本件残代金三万円について果して被上告人に遅滞の責がないかどうかを判断するためには、先ず、被上告人の負担する代金債務の全部又は一部が、所有権移転登記と同時履行の関係に在るかどうかを判断することが必要であり、またもし右のような同時履行の関係が認められないとすれば、約旨に反して便所及びその敷地を本件売買契約の目的に包含されないと主張して残代金の履行を求めた上告人に対して、被上告人が不履行につき遅滞の責を負わないことを得るためには、右便所及びその敷地の代金相当額は何程か、不履行の金額が右代金相当額の限度内であるかどうか、若し、その限度を越える部分があれば、その部分につき何が故に履行遅滞の責を免れうるかにつき判断を与えなければならない。しかるに原判決は、これらの点については判断を欠き従つて、原審の認定した事実関係だけでは、たとえそのすべての事実を綜合してみても、未だにわかに原審の判示した前記結論を首肯しがたく、ひつきよう原判決には審理不尽、理由不備の違法があるといわざるを得ず、論旨はこの点において理由がある。よつて原判決は、その他の論旨につき判断するまでもなく、破棄を免れず、上記の諸点については、更に事実審において審理を遂げる必要があるものと認められるから、本件を原審に差し戻すべきものとする。

よつて、民訴四〇七条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 入江俊郎 裁判官 真野毅 裁判官 斉藤悠輔 裁判官 岩松三郎)

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